比較展示 ~ベンガルヤマネコの彩のこと~
小獣舎担当 小高
2020年12月31日
恒温動物において同じ種では寒い地域に生息するものほど
⇒体重が大きく、体の大きいものほど寒い地域に生息する(ベルグマンの法則)
⇒突出部が小さくなる(アレンの法則)
動物たちの体のつくりにはこんなお約束があります。北極圏にすむホッキョクグマの体が大きく、東南アジアにすむマレーグマが小さいことがよく例にとりあげられますね。また、サルの仲間では最も北に生息するニホンザルの尾が短いこともこれで説明されています。
大宮公園小動物園では、このことを実際に見ていただくためにベンガルヤマネコとアムールヤマネコをそれぞれオスとメスの合計4頭を飼育していました。今年の10月、最後の1頭となっていたベンガルヤマネコのメス、彩(あや)が死亡しヤマネコの展示は終了しました。直接動物を見て、解説文を読んでいただくことで、より一層理解が深まり、興味を持っていただけたと思っています。
アムールヤマネコはともに16歳、ベンガルヤマネコのオスは18歳と皆長命で、彩も17歳6か月での死亡となります。彩はとても好みが激しく、食事のメニューの変更にはいつも困らされていました。また、慎重な性格で、いつもと変わったことは納得できるまで受け入れてくれません。寝室の暖房の入った棚に登るスロープの枝を変えたら何日も部屋に帰って来ませんでした。寒さ対策の布団は乗ってくれるまで何か月かかったことか。野生で生きてゆくために必要なスキルはこれなのかもしれませんね。
彩は夏の終わりごろより残餌が目立ち始めましたが、寝室と展示場の出入りやスロープの上り下りはできていました。春の換毛期ごろから毛づくろいが十分でなくなり肩口に毛玉ができていましたが、それ以外はピカピカの被毛を保っていました。9月の終わりごろより、減った食事量を補うために薬入りの流動食を使い始めました。オスとは違い人の手から食べることは拒否したので、投薬以外の採食は本人に任せました。死亡する2日前まで展示場に出て、いつもの棚の上のライトの下で寛いでいました。この日は少量ながら自力採食もしています。翌日は寝室の棚の上におり、伏せたり横たわったりしていました。寝室の中も展示場もくつろげる場所は高いところに用意してあります。そのほうがベンガルヤマネコらしいからです。体力が落ち足元が不安定に見えたころ、床に保温マットを敷いてみましたが利用しませんでした。最期の時もいつもの通り棚の上で横たわっていました。肺腺癌でした。
野生動物は最後の最後まで普通を装います。人にできることはあまり多くはありません。彩についても試行錯誤の連続でした。答えはないとわかっていますが、それでもこれで良かったのか聞いてみたくなります。ベンガルヤマネコもアムールヤマネコも日本の動物園ではもうほとんど見ることはできません。でも、この経験が日本の野生ネコ、ツシマヤマネコやイリオモテヤマネコの将来が明るくなることにつながればよいと思います。
彩さん、がんばりました。ありがとう。日本一の美描だったよ。