おとなになっても
観察を大切にしたい小高
2021年8月31日
The leopard cannot change his spots.(持ってうまれた特徴は一生変わらない)
長い間、同じ動物を観察していると、「三つ子の魂百まで」を実感する場面に出くわすことがあります。(学習したことだと思うので本来の意味とは少しことなりますが)
カピバラ舎の中でくらすメスのチェリー。小さい時のケガの継続的なケアをするために、他の個体と離れて過ごしています。もともとカピバラ舎は、夜間カピバラたちが寝室として使用するためにありました。それが、チェリーを隔離飼育するために現状のスタイルになったので、小さい頃は皆いっしょでした。夜間はカピバラたちが舎内にいるため、トイレ用に大きいコンテナと水飲み用に小さいバットが置いてあります。大きいコンテナは小さいカピバラにとっては使いにくかったようで、水飲み用に用意したもので用を足していました。その後、他の個体は展示場で過ごすようになり、カピバラ舎はチェリー専用になりました。ケガはしましたが、大人になったチェリーはすっかり大人サイズのカピバラです。でも、今でも工夫を凝らして小さいバットで何とかしようと…。
シシオザルは5頭の兄弟で毎日にぎやかです。3番目に生まれたオスのチカラはヒトの肩の上が大好きです。朝、展示場で給餌する時、持っている器から岩や切株の上に餌を置いていきますが、先回りして待っている個体もいます。チカラは離乳してみんなと同じ餌を食べられるようになった頃、お兄ちゃんのヴィーナやお姉ちゃんのディルバに負けまいと餌の器を持ったヒトの肩の上から直接器に手を入れて餌を食べるようになりました。間違いなくおいしいものを食べることができますから。今では十分体も大きく、力もついて、そんなことをしなくてもちゃんと食べることができるはずですが、2頭の弟を差し置いてヒトの肩の上はまだチカラのものです。さらに、掃除や修繕で展示場の中にいると、さりげなく肩に乗ってきます。そこに肩があるからと言わんばかりに。今ではおいしいものを1番に、に限らずあれば乗るものになっているヒトの肩です。
今、猛獣舎ではニホンツキノワグマとブチハイエナを飼育しています。ブチハイエナはオスとメスの2頭で、同居することなく午前と午後で入れ替えをして展示場に出しています。気温が高くなると、メスのキラは展示場の池を存分に利用します。体をつけるだけではなく、潜ることもします。でも、オスのホシは池を使うことはありません。水浴びは大好きでホースの水を柵越しにかけると大はしゃぎすることもあります。ですから、私たちは何かの理由で池が怖いか嫌いなのかと思っていました。ところが先日、ハイエナたちを以前から観察しておられる方から、ホシが池に入らないのは、この展示場の池は、自分より上位である(ハイエナはオスよりメスがえらい!)キラのものと認識しているからではないかとご意見をいただきました。思えば繁殖経験のある2頭です。かつては展示場を一緒に使っていたはずです。同じ所にいれば、キラのお気に入りの場所をホシが横取りできないのは当たり前。同居時代を知らず、1頭づつの展示が当たり前になっていたので思い当たらなかった理由。もしかしたら正解かもしれません。今、私たちはホシのために、ホシ専用のプールを作ってやれないか検討中です。
動物園では同じ動物を最初から最後まで同じ担当者が飼育できるとは限りません。寿命の長い動物だったら変わるほうが普通でしょう。でもそんなことは人間都合であって動物たちには関係のないことです。動物たちの行動には理由があります。いつもの生活が途切れないように、その個体がどんな性格で、どんな行動をするのか、観察して記録を残し、動物たちに心地良い生活を提供できるように工夫を続けていきたいと思います。