見えざる来園者
天野獣医
2022年1月31日
2022年に入って少し経った1月半ば。厳しい寒さが一時的にちょっと和らいだ日の夕方のこと。カピバラの給餌を終えて空っぽになったバケツをぶらさげてツル舎の裏を通りかかった私の足元にふわふわとした鳥の羽毛が数枚まとまって落ちているのが目に入りました。
「何の鳥の羽根だろう?」
と興味を抱くと同時にこのように数枚がまとまって落ちているときは大抵猛禽類などに狩られて羽根をむしられた痕跡であることを確信します。見つけた羽根には先の方に少しだけ木目のような細やかな模様が入っています。(写真)
「これは…」
周りを探します。…すると、ありました。翼の部分の羽根(風切羽根)です。何枚も落ちています。木目のような模様、根元にはタカのような縞模様。表面には羽ばたくときに出る音を消すための細かな毛が生えています。フクロウの仲間の羽根です。そしてこの大きさと独特のこげ茶色。オオコノハズクです。カピバラの餌のバケツを重ね合わせて羽根が風で飛ばされないようにして事務所に持って帰ってきました。
オオコノハズクは北海道から沖縄まで日本全国に生息する小型のフクロウです。名前からすると大きそうな印象ですが、両手のひらにちょこんと乗るくらいのサイズのフクロウです。よく似たものに一回り小さい「コノハズク」という種類がいるため「オオ」とつきますが、日本で見られるフクロウ類のなかでも小さいほうの仲間です。コノハズクの眼は鮮やかな黄色ですが、オオコノハズクの眼はオレンジ色です。
またコノハズクは昆虫を主食としており、冬になると東南アジア方面に渡って冬を過ごします。一方のオオコノハズクは地域や環境にもよりますが、ネズミやモグラなどの小型哺乳類を狩る傾向が強く日本各地で越冬もしています。
どちらも大木の洞などで子育てをするため自然豊かな山森に住みますが、オオコノハズクは冬になると平地の公園や雑木林にやってくることがあり、稀に民家の庭でも見つかることがあります。ただオオコノハズクは求愛をする繁殖期ですらあまり大きな声で鳴かないため、夜行性で体の小さなこのフクロウが人目に触れることは滅多にありません。
しかし個体数はそれほど少なくないようで、野鳥の救護の現場では市街地の道路や民家でガラスにぶつかったり交通事故にあったりした個体が毎年保護されるようです。
さてここで大宮公園のオオコノハズクに話を戻しましょう。
その場所で結構な枚数の羽根が見つかったのですが、実は数日経ってからカピバラの担当者がカピバラの放飼場付近でオオコノハズクの右翼そのものを発見して持ってきてくれました。やはり何かに捕食されてしまったようです。
フクロウ類は猛禽類ですから強いイメージなのですが、昼間にタカ類に見つかると狩られてしまうことがあります。運動能力ではタカには敵わないらしく、タカの狩場から各種フクロウ類の羽根が見つかることがしばしばあります。大宮公園のオオコノハズクもタカに見つかってしまったのでしょうか?(大宮公園にはオオタカやツミという、鳥類を好んで襲うタカが生息しています。)
もう一つの可能性は事故にあったりガラスに衝突したりして死んでしまったものをカラスが運んできて食べた、ということ。
今の状況ではタカなのかカラスによる死体遺棄(?)なのか(オオコノハズクそのものが弱ったりしていなければ生きたままカラスに捕食される可能性は低いと思います。)どちらかわかりませんが、いずれにしてもそんなに遠くから運んでこられたとは思えません。
大宮公園の、それもこの小動物園の中でこんな貴重な鳥の生息の痕跡を確認できたことはちょっと驚きでもありとても興味深い出来事でした。
日々の業務の中でも自然の声に耳を傾け神経を研ぎ澄ませていると意外なものや素敵なものに巡り合えることがあります。
小さな見えざる来園者。そんなオオコノハズクが大宮公園にも来ていたんだなぁと嬉しく思いました。今度は生きている姿で出会いたいものです。