インドガンの話
小髙飼育係
2023年9月15日
9月になっても暑い日はまだ続き、猛暑の秋になりそうな気配です。それでも暦は秋で、日照時間は短くなり、日の入り時間が早くなるために夕方の作業があわただしくなる日々が近づいています。
近頃、鳥インフルエンザの発生時期が早くなっているようで、もう予防措置をどうするか考えなくてはならない時期になりました。私が担当している鳥たちはツル舎と呼んでいるところにいます。数年前に全面を細かい網で覆い、予防のための作業は観覧面の網を引き下ろすだけなのでさほど面倒なことではありません。鳥たちにもストレスはないようです。
通常は「とりたちのらくえん」で飼育し、時期が来るたびに捕獲してツル舎に引っ越しを余儀なくされていたインドガンを、今年の春、感染症の心配がなくなってからも以前いた場所に戻すことをやめました。「とりたちのらくえん」は広く、ツル舎にいるより自由に生活できるかもしれません。しかし、捕獲され移動させられること(行きと帰りの2回)、しかもそれが繁殖の季節にかかることを考えると、小さいながらもプール付きの部屋で自分たちの仲間だけでくらす方が良いと判断したからです。そんなわけで、インドガンたちはツル舎の部屋で飼育展示することになりました。
ガンという鳥の仲間は、カモ目カモ科でカモより大きくハクチョウより小さい水鳥の総称です。マガン属とコクガン属に分けられ16種(諸説あります)います。オスメスが同じ姿をしていて主に昼間活動し草食性です。V字編隊飛行することでも有名ですね。
ここにいる4羽はオス2羽、メス2羽です。このうち左赤の足環のメスと右白の足環のオスが今年の春ペアを組みました。まだ鳥インフルエンザの心配があり、ツル舎に永住を決めていなかったので用意が間に合わず、4月の半ばに展示場の片隅に産卵してしまいました。急いで産箱を作ったところ、幸いにも利用してくれ、最終的には4卵を抱卵しました。残念ながら無精卵で抱卵を放棄したため、6月の初めに今季の繁殖活動は終了としました。右黒の足環のメスも産卵したので産箱を増やしたのですが、こちらはうまくいかず、後が続きませんでした。活動終了と共に産箱を撤収しようとしたのですが、なぜか、抱卵以前は給餌すると一番にエサ皿に寄ってきた左赤が他個体から攻撃されるようになり、産箱の上が避難場所になってしまいました。他の3羽がひとしきり食べ終わってから1羽で食べた後も、産箱の上で1羽で休息するという状態がしばらく続きました。そんなわけで、ひと夏、避難所として活躍した産箱ですが、9月に入り一番にエサ皿に来るようになった左赤を確認できたことで、ようやく撤去できそうです。
これから来年の春に向けて、冬を越す準備を始めます。それにしても何故、それまで一番強そうに見えていた左赤のメスが抱卵をきっかけに攻撃を受けるようになってしまったのかが謎です。抱卵中の約1か月ほとんどの時間を産箱の中で過ごしていたわけですが、同じ空間にいたわけだし、餌場も水場も共有していました。ペアの相手だったはずのオスもなにげに弱気。強いオスと強いメスがペアになった訳ではなさそうなのが理由かもしれません。二通りの組み合わせしかないので、来年はどうなるのか。工夫しなければならないことがたくさんありそうです。
小柄で、力強そうには見えませんが、同じツル舎にいるアネハヅルと同様に、このインドガンも渡りの時にヒマラヤ山脈を越えます。しかもツルのように上昇気流を利用するのではなく、翼の力だけで越えるそうです。しかも、休息なしにいっきに。
小さいけれどすごいやつ。インドガンもそう覚えてくださいね。