私のミッションインポッシブルin ecoハウチュー
齊藤(香)飼育係
2021年9月15日
9月13日で2周年となるecoハウチュー。動物園の中では珍しい屋内の飼育展示施設です。世界中の様々な環境で暮らすエコなネズミの仲間や小さな動物たちがここでのんびり暮らしています。
屋外で飼育展示をしている動物を担当していた頃は自然との戦いで、どんなに対策をとっていても大雨や大寒波ときには野生のヘビ襲来で繁殖がうまくいかなくなってしまったこともありました。お腹の大きい動物がいるときには、どうか暖かい日を選んでうんでくれますように、晴れの日が続きますように。と願ったり、室内だったらなぁ。と何度も考えたものです。
しかし、隣の芝は青かった。4月からecoハウチューの担当になり屋内飼育施設の課題や管理の難しさに悪戦苦闘中です。室内には室内なりの、悩みがあるんですね。
はじめに立ちはだかった壁は、植物が育たない。ということ。
ん?動物園なのに植物?と思うかもしれませんが植物は、動物展示で欠かせない存在です。動物たちの隠れ場所になったり、おやつになったりするだけでなく、来園者に生息環境を伝える役割や、動物たちをよりいきいきと魅せる効果もあると思います。植物があるかないかだけで、展示場の印象ってかなり違います。自然で暮らしている野生動物を飼育している以上、植物は動物とセットで存在していなければなりません。
しかし、雨が降らない、直射日光が入らない室内では植物を維持するのに一苦労。外では容易に大きくなる雑草や樹木でも、室内に連れてくるだけですぐに枯れてしまいます。加えて動物たちに食べられたりふまれたり折られたり…植物にとっては想像以上に過酷な環境です。
そこで考えたのが植物のシフト制。鉢植をたくさん用意して、何日かごとにメンバーチェンジするんです。日差しにたっぷり当てたグループを中に入れ、中でがんばったグループを日差しに当てる、という方法です。パンパスグラスという草を使用してパンパステンジクネズミの展示室で試してみたところ、維持は可能だったのですが、パンパステンジクネズミが食べてしまうので植物の回復が思った以上に遅くなってしまいました。鉢植えだと生息環境の再現性も低いので、今では園内の草を土付きのまま抜いては入れ、抜いては入れ、まかなっています。枝に登ることができるデグーやグンディ、キボシイワハイラックスだと、もっともっとあっという間にやられてしまうと思うと、まだまだ改良していかなければならない課題です。
そして今もう一つ取り組んでいるのが、鳴き声の展示です。
ecoハウチューでは、動物と来園者の間がガラスで仕切られているので、動物の鳴き声やにおいがあまりしません。これって実はちょっともったいない。動物園ではにおいや鳴き声も大切な展示物。せっかく足を運んでいただいたからには目で見る情報だけではなく、できるだけたくさんの感覚を使っていのちを感じてほしいです。なによりネズミたちの鳴き声がとても可愛らしくて癒されるので、これを聴いてもらえないのはもったいない!と思っていました。
そこで現在、ネズミたちのいろいろな鳴き声を録音中です。何種類もの鳴き声を使い分けて仲間とコミュニケーションをとるネズミもいるので、いろいろな声を集めて、展示できたらいいなと思っています。まだ作成の途中ですが、いい声が取れ次第、QRコードで展示していきますので、おたのしみにしていてください。
室内展示にはこれ以外にも細かい温湿度管理や空調のメンテナンス、土の補充、砂埃対策などなど、今まで経験したことがなかった様々な課題がたくさん。タイトルはミッションインポッシブルですが、インポッシブルをポッシブルにするべく、これからも少しずつ工夫して動物にも来園者にとっても、よりよい展示を目指します。