クロツラヘラサギの人工育雛
中村飼育係
2021年10月25日
今回は今年の5月に行った、クロツラヘラサギの人工育雛について紹介したいと思います。
4月21日から数日かけて1つのペアが4個の卵を産卵しました。前回同じペアでうまく育てることができなかったため、今回は人工育雛と併用育雛を用いました。併用育雛は、巣立ちの前から群れの中で育つため群れに馴染むのが早く、クロツラヘラサギで用いられることが多い方法です。
人工育雛:巣立ちまで人が育てる方法
併用育雛:人が7日齢ほどまで育てて体力をつけてから巣に戻し、その後は親が育てる方法
クロツラヘラサギの抱卵期間は25日前後です。そのため産卵を確認してからしばらくの間は抱卵させておき、20日目で卵を回収し、ふ卵器で温めました。併用育雛を行うため、巣にはヒナを戻すまで擬卵を代わりに置いて抱かせます。
回収してから7日後、ついに1羽目がふ化しました。
その後、残りの3卵もすべてふ化しました。親の負担を考え、4羽のヒナのうち併用育雛は2羽にして、残りの2羽は巣立ちまで人工育雛としました。 ふ化してから14日齢ほどまでは、ドジョウや小松菜などをペースト状にした流動食を与え、7日齢くらいになると小さなドジョウも与えはじめます。
この頃は、まだ親鳥から魚をもらっているので、私たちが親の代わりに魚を口の奥まで入れて与えます。これらを1日5回に分けて与えていきます。
併用育雛のヒナは9日齢で巣に戻し、問題なく親がヒナを受け入れてくれました。
一方で人工育雛のヒナは巣立ちまで体重測定を毎日行い、成長とともにエサの種類や回数を変更しました。流動食はトキ専用のペレットをふやかしたものに変更し、徐々に与える量を減らしていきます。また、ドジョウは徐々にサイズを大きくし、量を増やしていきました。その後、群れに普段から与えているワカサギやアジに変更していきながら、自分の力で魚を食べられるように練習をしていきます。
人工育雛のヒナは45日齢ごろには巣立ち、90日齢で群れへと戻しました。人の手で育っているため群れとの距離はやや開いており、今は群れに馴染むのを待っています。
初めて晩成性の鳥の人工育雛に関わりましたが、あまりの忙しさにあっという間に2か月間が過ぎました。残念ながら併用育雛を行ったヒナうちの1羽は巣から落下して死亡してしまいましたが、3羽が群れに加わることができました。今では見分けが少々難しいかもしれませんが、よく見るとくちばしの色がまだ肌色ですので、ぜひ今年生まれのクロツラヘラサギを見つけてみてください。